Love & Comic - いしいたけるのマンガのサイト

オリジナル(ページものや4コマ)マンガやゲームものマンガ(アイドルマスター・ファンタジーアースゼロ[FEZ]・モンスターハンターetc.)など

Love & Ginger - 物語文章

トップページ > 物語文章 > Love & Ginger - 物語文章

【9】

 「ケガ、大丈夫だった?」

 神社でひと騒動あった次の日は休日だった。
 岬は祐に電話をかけた。

 「いま遺書を書いています。」
 「本気で心配してるんだけれど。」

 「大丈夫ですよ、ありがとう。」

 「ちょっとどっか出掛けて話さない?」
 「いいですね。」

 ふたりは自宅の前で落ち合って、四つ葉の1階にあるハンバーガーショップに向かった。
 祐の首の側面にはあざが出来ていた。


 祐はジンジャーエールを、岬はフライドポテトとストロベリーシェイクとを注文した。
 「昨日は大変だったね。役に立てなくてごめんなさい。」
 「いやいやいや。
 神社に無理矢理連れて行ったのはボクだったんだし、ミサキモリさんが電話してくれたおかげで何とかなったし。
 あなたがいて本当に助かったんですよ。」


 「昨日突っつかれた首のところ、大丈夫だった?」
 「おかげさまで生きています。
 ま、派手に吹っ飛びましたが結局は年寄りの弱った体から繰り出された攻撃でしたしね。」

 「すけさんたまに生傷が身体に付いていることあったけれど、あれは全部おじいさんに?」
 「そうですね。」

 「あと、界王様と。」


 「怖かったよ。」
 「ボクがですか?」
 「うん。おじいさんと、すけさんも怖かった。」

 「怖いすけさんはじめて見たよ。」


 「昨日、祖父に怒鳴ったのを、ボクは後悔しているんです。
 穏やかに接しないと、いつまでも相手の興奮状態が治まらないですからね。」

 「昨日は多分、祖父も石段、登ったのはいいけれど自分では降りれないってことを判ってたんだと思うんですよ。
 その不安があったから、いつも以上に激しい不穏状態になっちゃったんだと思います。」
 「フオン?」
 「認知症の方が不安から興奮してしまい手を付けられない状態になってしまうようなことですね。
 ってボクは理解しているんだけれど医学だか福祉だかの分野ではもっときっちりした定義があるのかもしれない。」


 「うちの両親によると、祖父はどうやらもう施設に入ってもらうしかないんじゃないかって。」


 「大変だよね。」

 「大変はそうだけれど。」

 「それ以上に、戸惑います。
 自分の感情に。
 お世話になった祖父なのに、痴呆のせいであんなになってるだけで本来は優しくて頼りになるひとなのに、やっぱり、いまああいう感じだから、ついこう、憎悪の気持ちを抱いてしまいそうになるんですよ。
 本当ならもっと慈愛とか同情とかをもって接しないといけないんだろうけれど、自分の時間を削って外に探しに行かなくちゃならなくなったり家で暴言とか暴力とかがあるときになだめたりしないといけないとなると、やっぱりイヤなんですよね。
 めんどくさいし、出来れば関わりたくない。」

 「そういう自分の冷たさに、ぞっとします。」


 「でもそれは、すけさんみたいな立場にある人間なら当然抱く感情なんじゃないかな。」

 「そうかもしれないけれど。」

 「多分だからと言ってあんまりいいものではないはずですね。」


 「そういえば、昨日はボクがミサキモリさんを元気付けるつもりで神社に行ったんでしたね、それどころじゃなくなっちゃったけど。」
 「そう言えばそうだったかな。」
 「じゃあ気を取り直して、今から。」


 「今からどうするのかしら?」
 「川に洗濯に。」


 「Aさんの話によると、ミサキモリさん最近元気がないみたいだって。悩んでるんじゃないかって。」
 「Aさんって誰?」
 「ああ失礼、あの、ミサキモリさんの友達の女性ですよ。」
 「ひぐちゃんかな? 樋口もみじさん。」
 「多分その人。」

 「で、悩んでるんですか?」

 「うーん。」

 「すけさんのところの事情に比べるとあんまり深刻な悩みでもないのかもしれないけれど。」




 「この脚のことなんだけど。」
 「深刻ですね。」

 「やっぱり、車椅子ってイヤなのよ。
 色々なことでいちいちひとに手伝ってもらわなくちゃいけないっての、その都度申し訳ない気持ちになるからすごく疲れるんだよ。
 映画のときも、」

 「すけさんに迷惑かけちゃったし。」
 「あれはだから、気にしないで欲しいな。」
 「気になるんだもん。」
 「気になりますよね。」

 「だから、まあ前からなるべくひとの手を借りないで済ませるような努力はしてたんだけれど、ここ1週間くらいはとくに、できるだけひとの、っていうかすけさんに迷惑かけないようにやってみようとしてたのよ。
 つまり、登下校をひとりで、ってね。
 すけさん相手だとつい甘え易いからさ、随分迷惑平気で掛けるようになってたし。」

 「ボクはつまらなかったですよ。車椅子押すの好きだし。」
 「あたしもつまらなかった。大変だったし。」


 「やっぱり今でも思うよ。事故さえ無ければって。
 この脚、高1のときの交通事故のせいなのよ。
 飲酒運転ドライバーにはねられて。」

 「事故にあってからしばらくは毎日泣いてたけれど、かといって私、まだ泣くもん、夜とかになると。」

 「治んないんだけれどもね。セキツイソンショウってことだから。」

 という話を、岬は湿っぽい笑顔でゆっくり話した。


 「ボクの意見では、」
 岬がひと通りの話を吐露し終えただろうと思われた頃、空になったジンジャーエールの紙コップに残っていた氷も全部解けてしまった頃、祐が話し出した。

 「脳に損傷を受けてなくて良かったのではと思います。」

 「もちろん、事故なんか無かったほうがいいに決まっているし後遺症も残らないに越したことはないけれど。
 ボクは祖父の認知症を見ているから、車椅子だろうがなんだろうが話がまともに通じるということを本当にありがたく感じるんです。」

 「って全然、気休めにもならない話ですね。」

 「そうでもないよ。」


 「ま、比較するのも意味ないか。
 とにかくボクなんかだったら、ミサキモリさんのフォローをするのは楽しいしボクにやらせて欲しい。祖父のフォローは出来るだけゴメンこうむりたい。
 それが正直なところですかね。
 フォローするほうも出来るだけ相手に気兼ねや遠慮を抱かせないような工夫が必要になってくるみたいですよ。ヘルパーさんに聞いたんですけれど。

 手伝うほうが気持ちよく手伝えて、手伝いを受けるほうが気持ちよくそれを受けることが出来たら、それがいいんでしょうね。

 まあつまり、ボクはミサキモリさんの手伝いするの好きだし気持ちいいから、また前みたく仲良くやって行きましょうよ。」

 「そうね。」

 「どうせ誰かの助けを借りなくちゃいけないんなら、私はすけさんにやってもらいたいから。」


 「なぜボクが、ミサキモリさんのお手伝いを熱心にしたがるのかわかりますか?」

 「お隣さんだから?」
 「いや。」

 「車椅子を可哀相に思ったから?」
 「いや。」

 「界王様との修行の一環?」
 「惜しい、いい線行ってる。」


 「ミサキモリさんのことが好きだからです。」

 「じゃあ、丁度いいじゃない。」


 「私が、手伝い受けるならすけさんにやって欲しい理由もね。」
 「うん。」


 「すけさんが好きだからなのさ。」




 その日以降、彼らはまたふたりで一緒に登下校するようになった。
 神社前から始まる坂道では、祐が岬の車椅子を押してあげた。

▲このページのトップへ

当サイトのコンテンツは自由に加工、使用してくださって結構です。