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Love & Pillow - 物語文章

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【6】

 ボクは後悔していた。柚月さんが申し出てくれた「恩返し」枠を無駄使いしたことを。

 ボクは柚月さんに恋をしていたから。

 『相手が自分のことを好き』という思い上がりは確かにしてはならない。

 でも、違うだろ、そういう話じゃないだろう。

 ボクは柚月さんが好きだ。
 柚月さんにもボクを好きであって欲しい。
 それは「自惚れな思い込み」ではなくて、ボクの「願い」じゃないか。

 柚月さんにも、ボクを好きであって欲しい。
 ボクは柚月さんが好きだから。


 柚月さんが恩返しを申し出てくれたあの日から、ボクらの最後の邂逅から4日過ぎた。
 気温が突然上がり、生徒の中には早々と夏服を引っ張り出してきている者も何人かあった。


 ボクはその日、授業が終わるとまっすぐに校門のところまで行き、下校していく生徒をひとりひとり見送っていた。
 下校する柚月さんを捕まえるために。

 思えば、ボクと柚月さんとが会うときは、いつでも柚月さんがボクを探しに来てくれていたのか。
 幸せだったんだなあ。

 ボクのほうから柚月さんを探すのは、これが初めてということになる。
 ボクはいつだって、柚月さんに会うためならどんな努力だって惜しまないだけのつもりでいたんだけれど、そうか、ボクはいつも待ってるだけだったんだ。

 とにかくボクは、校門で柚月さんを待ち伏せする。

 果たして柚月さんは現れるのだろうか?
 そもそもボクは、柚月さんが普段誰とどういう風に時間を過ごしているのかなんて何も知らない。
 ひょっとしたら部活でもやっていて、不眠症も解消したんだしそっちに打ち込んでいるかもしれない。
 ひょっとしたら彼氏がいて、寝不足の解消した晴れ晴れとした顔でデートにでも行くのかもしれない。


 柚月さんのことがもっと知りたい。

 とにかくボクは、柚月さんに会うためにここで待ち伏せするだけだ。


 ボクは校門の脇で3時間半待ち伏せしていた。

 彼女は現れなかった。

 (これは、わたしが校門に到着する前にさっさと帰っちゃったってことかな? あるいはボクのフシアナな目が柚月さんが通り過ぎていくのに気付かなかっただけか。)

 「ダメかもな。」


 ボクはため息をつくと、地面に置いたかばんを拾い上げて、だらだらと再び学園内に入っていった。
 なんとなくあの場所に向かっていた。旧図書館前、ザ・ベスト・オブ・ヒルネプレイス。


 ボクは驚いた。
 旧図書館入り口の軒下に、柚月さんがいた。
 ブックと仲良くふたりで昼寝していた。

 ボクは抜き足で柚月さんに近づくと、すぐそばにしゃがみこんだ。


 「柚月さん。」
 ボクは柚月さんの肩をしっかりゆすって声をかけた。
 眠る彼女を起こすつもりで。

 柚月さんの目がゆっくりと開いた。

 ボクを見る。
 返事はない。


 「ひどいなあボク抜きでお昼寝ですか?」

 「…。」

 「さっきまで校門のところであなたを待ち伏せしていました。
 あなたに話があるんです。」

 「…。」


 「話って、キミが、あたしに?」

 「話って、ボクが、柚月さんに。」

 「ボクにとっては大事な話です。」


 「それ、いま聞かなくちゃ、ダメ?」
 「是非、いま、たのみます。」

 「じゃないとこころがくじけてしまうから。」

 「聞くよ。」


 「ボクはあなたのことが好きです。」

 「…。」

 「恋愛的な意味で。」

 「ボクはあなたに恋しました。恋しています。」


 「どう思います?」

 「どうって言われても…」


 「端的に言えば、あなたの不眠症が治っても、マクラとしてのボクが必要無くなっても、ボクはあなたと一緒にいたいと思いました。
 あなたと一緒にいると、楽しいし、ボクは幸福な気分になります。」

 「だから、ボクの、恋人になってください。」

 「お願いします、柚月さん。」


 「いまさら、なー。」
 柚月さんは曇った顔で言った。


 「キミは、ヘンだ。」
 「そうですか?」

 「キミは、おかしいよ。」
 「そうかなあ。」


 「だったらなんであのとき…」

 「ひとが、せっかく…」


 「キミは、バカだなあ。」
 「そうですね。」

 「バカだよ。」
 「はい。」


 「あたし、昨日、新しい彼氏が出来たんだ。」


 「うそだけど。」


 「びっくりした?」
 「泣きそうでした。」


 「信じたの?」
 「そりゃあ、」

 「柚月さんなら引く手あまたでしょうから。」

 「キミの手は2本しかないみたいだけれど。」


 「あたしに振られたらどうする?」
 「泣きます。」

 「あたしのこと嫌いになる?」
 「そりゃあもう。」

 「毎晩欠かさず写真に5寸釘打ち込んであげますよ。」

 「歯を磨きながらね。」


 「キミ、あたしの写真なんか持ってたっけ?」
 「いや。」

 「ください。」

 「えろいやつを。」
 「高いよ。」


 「じゃあいいや。」
 「失礼だあ。」


 「全財産はたきますからください。」

 「考えとくよ。」


 「ボクの恋人になってください。」


 「うん。」


 「いいよ。」


 「…。」


 「ありがとう。」

 ボクはお礼を言った。


 涙が出た。


 その後、ボクと柚月さんとは軽く雑談し、下校時間になるとふたりで一緒に帰ることにした。

 ボクは校門のところで柚月さんと別れず、自宅にまっすぐ続くほうの道を初めてふたりで歩いた。

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