オリジナル(ページものや4コマ)マンガやゲームものマンガ(アイドルマスター・ファンタジーアースゼロ[FEZ]・モンスターハンターetc.)、pixiv投稿作品など

Love & Comic - いしいたけるのマンガのサイト

[Web拍手 ぜひマンガのご感想をお送りください]

鬼子譚

【01_01】

わたしは七年ぶりに故郷の村に戻ってきていた。中学はこちらで卒業したのだけれど、その頃両親と死別してしまっていたため、高校からは東京に住む親戚の厄介になっていたのだ。
わたしはこの四月から、母校である中学校に教師として赴任することになっていた。

といってもまだ故郷での新しい住まいが決まっている訳ではなく、今は町のビジネスホテルに泊まっている。できれば三月中には適当なアパートを見つけて、そこに引っ越したいと考えていた。

その日は、晴れているとはいえ気温が低かった。まだ二月下旬なのだ。わたしは、グレーのタートルネック・黒のチノパン・あたたかい黒のハーフコート・ベージュのディーバッグと、学生時代から変わらない服装でホテルを出た。服装にはあんまり気を払わない主義だった。

さすがに七年も離れていると、村の様子も多少変わっていた。けれど都会に比べると、景色の変化のスピードも緩やかなのだろう。劇的に!すっかり!変わり尽くしてしまった!というほどの変化もなく、変わるにしてもその変わりようの印象は中途半端な感が否めない。

「学校の近くでアパートが見つかればいいんだろうけれど、しかし、田舎ってのはそもそもアパートなんてないんだなあ。」

とりあえず四月からの職場である学校の近くからうろうろし始めてみたが、わたしの見通しに反してそれらしきものを見つけることはできなかった。わたしは学校のそばを流れる小川にかかる小さな橋の欄干に寄りかかり、静かに光を反射している川面を空しく眺めていた。

親戚の家に引っ越す前、いつも通っていた場所ではあったけれど、借りて住むことが可能なアパートがあるのかという視点で村を見たことがなかったので、わざわざ見て回らなければそういうことにも気付けないようだった。

気を取り直して徐々に学校から離れた場所にまで足を伸ばしてみた。しかし、しばらく探し回った挙句、どうもアパートというものは都会にしか存在しないものなのかもしれないぞと感じ始めていた。

わたしが以前住んでいた家は借家だったので、当然もう他の住人が住んでいるはずだった。ことによっては建て替えられるなり取り壊されるなりしているかもしれない。

とりあえずいい加減歩き疲れてもいたのでベンチで休憩しようと公園に入った。この公園も、幼い頃当時の知り合い達と遊んだ記憶の染み込んだ場所だ。もちろん、必ずしもいい思い出ではないのだけれど。
都会の公園に比べると、面積にはずっと余裕がある。緑も豊富だし、公園たるものどこに行ってもこうあって欲しいものだと思う。

意外にも公園には先客がいた。しかも集団で。
少年たちだった。制服こそ着てなかったけれど、おそらくわたしの勤めることになる中学の生徒なのではないか。

不穏な空気が満ちている。どうやら少年たちにはふたつのグループがあり、にらみ合っているらしい。
今にも暴力沙汰の起きそうな、危うい雰囲気だなと感じた。

「この辺に安く借りられるアパートないですかね。」
言いながら、ふたつの少年のかたまりの間に割って入ってみた。
少年たちがこっちを見る。ある少年は睨み付けてくる。またある少年は視線から戸惑いを見て取ることができた。

「月の家賃が五万円以下だと助かるんですが。」
「なんだおっさん? 不動産屋にでも行けよ。」
背の小さい、すばしこそうな少年が応えた。

「ああそうか。アパートを探すときは不動産屋に行けばいいのか。この辺に不動産屋があるんですか? わたしはノ木口 仲良(のぎぐち なかよし)といいます。」
「知らねえよ。おれたち取り込み中だからさっさと失せろ。」
さっきと同じ少年が言った。人見知りしない性格なのかな、とわたしは思った。

「きみたちは、いまにも暴力事件を起こしそうな雰囲気をかもし出しているようですね。なにかあったのかな。」
「うるせえな。おっさんには関係ねえだろ。てめえからぶっとばされてえのか。」

わたしはまだ二十代前半のはずである。おっさんはさすがにどうなんだろう。とはいえ、たしかに中学生にとっては、大学生以上の人間は「おっさんおばさん」なのかも知れない。わたしが彼らくらいの頃の認識ではたしかにそうなっていた。

反対側のグループから、いままでとは別の少年が口を開いた。背の高い、色白で華奢そうな体格をしている。
「ぼくたちは彼らに呼び出されたからここに来ているだけです。お判りのように、ぼくらと彼らとで別々のグループを形成しているのですが、説明すると彼らが地元出身、ぼくらは引っ越してきた転入生組ですね。」
口調が落ち着いているところがわたしには気に入った。中学時代のわたしだったら、こういう緊張した場面ではしどろもどろになってしまっているだろうなと感じた。

「こういうことかな、つまり、『新入りがでかい顔すんじゃねえと焼きを入れるために公園に呼び出した』。」
地元少年グループと思われる側の少年(例のすばしこそうな彼)に語りかけた。

想定外の「おとな(実際にはわたしが大人の部類に入るかどうかは大いに疑問の余地があるのだけれど)」の登場に、少年たちの大部分は苛立ちを募らせているようだった。なんらかしかの口実を見つけ速やかに暴力に訴えたいという欲求があり、そのつもりでここに集まっているのに、予定外の闖入者に邪魔されている。そういう状態らしい。こういうのをなんていうんだっけええと。

一触即発。

「そういうことです。ぼくたちとしては大いに迷惑しているところです。」
転入組の少年が言うと、
「なんだとてめえ! そもそもてめえがシイタケにちくりやがるから…」
少年たちなりのそれぞれの言い分があるようだった。

(シイタケというのは先生のあだ名なんだろうな…)

「まあきみらもこんなところでつまらなくいがみ合ってないで、誰かの家に集まって健全にマリオカートで対戦でも…」
「ああもうウゼエ、消えろ!」
後ろから蹴られた。どうやら例のすばしこそうな少年かららしい。

それと同時に、少年たちのモードが変わるのを感じた。水を撒くとき、ホースの先を指でつぶして水圧を溜め、それを解放するときのような勢いが、少年たちの強い呼吸に表れていた。

「わたしのお勧めの武器は、ランスなんですが、スキルとセットで…」
わたしはどうもこういう場面では、話題をそらして気勢をそごうとする戦略を取りがちらしい。
そらした話題を続けようとすると、左からいきなり顔面を殴られた。わたしの自慢の楕円形のメガネが飛んだ。このメガネは知り合いの腕のいい眼鏡屋さんの店で値段にけちをつけずに作った高度なメガネなのだ。
ともあれ、わたしは倒れた。


わたしを殴ったのは、いままで口を開いていない、転入生グループの中の一人だった。おとなしそうな少年で、いままでグループの中でも後ろのほうに隠れていておどおどした態度が目立っていたが、ひとつめの蹴りをきっかけに、張り詰めていた緊張が彼を行動にはじき出したかものらしい。
少年の手には金属製のメリケンサックがはめられていた。通信販売で買えるようなもので、わたしも中学時代、当時の知り合いが似たようなものを見せてくれた覚えがある。

「おま… 何でお前がいきなり殴るんだよ。」
「おい、おっさん倒れちゃったぜ…」
「頭打ったように見えたけど…」
「血ィ出てるぜ。打った頭からじゃなくてメリケンサックで切れたみたい。」

「…逃げよう。」

少年たちは、逃げた。ひとり残らず。

わたしは、実際倒れた際に頭を打ってしまっており、気を失っていた。殴られるのも気絶するのも人生でこれが初めてだった。

>>次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加