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鬼子譚 - 物語文章

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【02_10】

コムスビが弓を引き分けようとする。

「む… なんという固さだ…
その姿になってさえ、まだ抵抗するというのか。」

それでもコムスビは歯を食いしばり、無理矢理に弓を引こうとする。
震える両腕の中で、えりかさんの弓が徐々に引き絞られていった。

弓が一杯にまで引かれ、ユニの心臓に狙いが定められる。

コムスビが弦から右の親指を離そうとしたその瞬間。

弦が千切れ、弓が折れ、それと同時に、矢が矢尻ごと粉々に砕け散った。


「なんというちょこざいな、すさまじい執念か…」

コムスビは苦りきった顔で、水面に浮かぶ弓矢のばらばらになった残骸を呆然と見下ろした。



由仁…

 由仁…


由仁ちゃん…

 由仁ちゃん…


いまわたしたちが、助けてあげるからね…

あのおっさんはなんだかごちゃごちゃ言っているけれど、気にしなくていい。
三人でうちへ帰ろう。温かいご飯を食べよう。
ずっと仲良く暮らそう。

私たちは、きみを愛している。




……


「帰ろう、父さま、母さま。」

由仁が目を覚ました。銀の角が白く光っていた。

「鬼子の娘…! 馬鹿な、目を覚ますとは…」


「私、うちへ帰ります。父さまと母さまを元に戻してください。」
「ならぬ。お前はひとの世のためにその命を捧げなくてはならんのだ。」
「やだよ、そんなの。勝手に決めないで。」
「口ごたえするかっ!」
コムスビが由仁に手をかざし、念を込める。

だが、由仁は、ゆったりとした動作で、自分が掛けられている見えない十字の台から体を外していった。
そして水面に立つ。

「なんという強い神通力だ…」
「もう一度だけ言うからね。父さまと母さまとを返してくれれば、おじさんを許してあげます。」
「わしの使命はひとの世の平和に奉仕することだ。お前の要求など汲むことはできん。」

コムスビがいっそうのちからを振り絞って由仁に念を送り込む。
しかし、つらそうな様子が現れるのは由仁においてではなく、コムスビの表情においてのみだった。

由仁が水面に手をかざす。由仁の角の光に呼応するようにして、水が青白く光る。
光がおさまったとき、ユニの右手にはわたしの矢が、左手にはえりかさんの弓が握られていた。われわれはそれぞれの道具の形を取り戻していた。

矢をつがえる。
由仁が静かに弓を起こす。
ごく軽いちからで、えりかさんの弓は丸々と引き分けられた。

由仁は矢の狙いをコムスビに定めた。
さすがのコムスビも、焦りを見せた。今の由仁が帯びている神秘的なちからはその方面の専門家らしいコムスビをも凌駕しているのだろう。

「鬼子よ、やめろ。この、鬼の司に弓を引くというのか!

お前の命は、人類全体への奉仕のためにある高貴なものなのだ! 醜くしがみつくな! 運命に従い、正しく役割を、果たすのだ!」

「私たち家族をばらばらに引き裂こうとするやつは、許さない。」

「我欲に囚われるな…! お前には、人類の平和のためになすべき役割…」


矢が放たれた。

わたしはコムスビの、鬼の司の心臓を貫いた。


鬼の司は水面に倒れた。由仁がわたしを引き抜くと、男は水の底へ沈んでいった。


「守ってくれて、ありがとう。父さま、母さま。
私に力が与えられたのは、父さまと母さまのおかげです。」


無事でよかった。


帰ろう。三人で。

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