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【速報】幼女が養女になった

【01-01】

[池袋のアメドリなう]

[新ガラク単品売り一枚5000円 たけえ! メイドさんが雇えるぞ!]

思わずiPhoneのTwitterアプリからツイートしてしまった。

『5000円、か…』

ここは池袋。
この街にはたくさんの側面があるが、その中のひとつに、カードゲームショップのメッカという面がある。
わたしが知っているだけでも、カードゲームの専門店が5軒はある。
ここで言うカードゲームとは、トランプや花札といった、ワンセットあれば遊べる類のものではない。トレーディング・カードゲーム(TCG)と呼ばれるものだ。
数千種類からなるカードを集め、自分の戦略に沿ったデッキを組み、ルールに従って対戦する。

わたしの行きつけは「アメニティドリーム」という名前のチェーン店だ。
普通、TCGのカードは、数枚のカードがランダムに封入されている「パック」という体裁で販売されている。しかしカードをむやみに集めただけでは遊ぶことはできない。
多くの対戦型TCGでは、カードを集めて「デッキ」というまとまりを作る。デッキとはルールに決められた枚数のカードの集まりで、プレイヤーの分身とも言うべき、美学と戦略との結晶である。
自らが考えた一定の戦略に基づいて、その戦略に沿ったカードを集めることでデッキは作られる。プレイヤーは自らが全身全霊を傾けて構築したデッキを持ち寄り、お互いの力量を競い合うのだ。
ただしデッキを組むのにはそれなりの知識がいるし最低限のルールも把握していなくてはならない。そこで、構築済みのデッキというものも販売されている。これはそれなりの戦略に沿って集められたカードが、デッキとして必要な枚数セットになっているものだ。初心者がそのTCGシリーズに初めて触れる際にとっつきやすいという役割も持っている。

カードの専門店のいいところは、パックや構築済みデッキだけではなく、カードが一枚ずつバラ売りされていることだ。
構築済みデッキに入っているカードは決まっており、そしてそこにはベーシックなカードしか含まれていない。強力なカードやレアなカードを手に入れたいのであれば、本来ならパックをたくさん買って、自分が求めるカードが当たるまで延々とお金をつぎ込まなくてはならない。
ところがカードゲーム専門店では、店側がパックを開封し、その中身のカード一枚一枚に値段を付け、バラ売りをしているのだ。客はもちろんカードの中身を確認して買うことができるので、自分のデッキの構想に従ったお目当てのカードをピンポイントで購入することができる。
ただし、カードの価格は一定ではない。レアなカードや強力なカードには高い値段がつく。パックで買ってもすぐに手に入るような発行枚数の多いカードや、ゲームで大して役に立たないカードなどは価格が下がる。

『5000円、ね… 人生って過酷だなあ…』
わたしは単品売りのカードの陳列されたガラスケースの前に立ち尽くし、ケース内に陳列された「原初の狩人ガラク」と、かれこれ20分ほどにらめっこをしていた。
一枚5000円。

TCGにはいろいろなシリーズが発売されている。海外産のものもあれば国産のものもある。古い歴史を持つものもあればシリーズ展開が始まったばかりのものもある。
わたしがプレイしているのは「マジック・ザ・ギャザリング」というシリーズで、これはTCGというジャンルを成立させた元祖的存在だ。「マジック」とか「ギャザ」とか「MTG」などと略される。
その歴史はTCGの中では最も古く、1993年にアメリカのウィザーズ・オブ・ザ・コースト社から発売されたのが起源になっている。
このゲームは全世界で支持され、日本語版公式Webサイトによれば、「世界9ヵ国語・60カ国で発売され、600万人のプレイヤーに愛されて」いるそうだ。

「原初の狩人ガラク」というのは、マジック・ザ・ギャザリングのカードである。
レアカードではあるが世界に数枚しかないというようなお宝級のものではない。ちょっと気合の入ったプレイヤーならば当然持っている程度の水準のレア度だと言えるのではないだろうか。
一枚5000円という高値が付いているのは、このカードの人気を示していて、それはこのカードがゲームに役立つ強力な能力を持っているということでもある。ただ、高額カードの中でも飛び抜けて高い部類かというと決してそうではない。
気合の入ったカードゲームプレイヤーであれば、一枚5000円程度のカードであれば、何のためらいもなくコレクションに加える程度の価格だろう。なにせ、本格的なプレイヤーがカードにつぎ込むお金というものは、「車を買うのに比べたらカードゲームのほうが安い」と表現されるくらいのものだ。

わたしはそこまで気合の入ったプレイヤーではない。できれば、ほどほどのお金をかけてほどほどのデッキを作り、ほどほどに楽しめればいいやと思っている。
しかし最近、カードゲーム仲間との間の対戦において、わたしは連戦連敗している。彼らのデッキはわたしの二回りは強い。
出来ればここで強力なカードを仕入れデッキの強化をはかり、せめて彼らと互角に戦えるようにしたいところではある。

iPhoneの画面を更新し、Twitterをチェックすると、相互フォローしているカードゲーム仲間からレスが付いていた。
[You 買っちゃいなYo! また対戦しようず]

わたしが出費をためらうのには大きな理由がある。
会社を辞めたばかりなのだ。次の仕事も決まってない。
暇になったからとふらっと散歩がてらショップまで来てむやみに購買意欲を刺激させたりなどしてしまったが、収入源を手放した上に出費まで増やしてしまうようでは、多少の貯金はあるとはいえ、身の破滅を加速させるようなものである。

「あ、新ガラクだ。」
後ろから別の客の声がした。そういえば長い間このガラスケースの前を占拠してしまっていた。
その客はわたしの注意を引いた。カードゲームショップの客には珍しい、女性の一人客だった。パッとしか見ていないが高校生くらいに思われる。私服なのでよくわからない。
カードゲームショップ店内は男の世界だと言って良い。しかもオタク男がその主成分である。非常にむさくるしくジメジメしている。
たまに女性客を見かけることがあっても、それは他の男性客のツレであることが多い。カードゲームショップはカップルでの来店を厳しく取り締まるべきだとわたしは常々主張している。

わたしはガラクのガラスケースの前のスペースを空け、そのまま店を出ることにした。

「一枚… 5000円。うわっ…」
わたしが開けたスペースに滑り込んだのであろう、先ほどの女性客がつぶやくのが聞こえた。彼女もガラクに興味があるのだろうか。

[ガラクに興味のある女性に悪いコはいない]
名言が思い浮かんだのでとりあえずツイートしておいた。

店を出た。
店外で一息つき、今回の来店での総括をツイートしておくことにした。

[新ガラクは欲しいがいまはガマンかな 新しい職が決まるまで出費は控えたいところ ああでも欲しいなあうーん… ガラクも欲しいが美少女も欲しい できれば後者のほうがいい]

iPhoneをズボンのポケットにしまうと、愛用の下駄を鳴らして、歩き出した。

【01-02】

ショップからアパートまで真っ直ぐ帰るのでは散歩として歩き足りなかったため、わたしは板野神社に寄り道することにした。

わたしは神社という場所が好きだ。その理由はフィクションからの影響である。エロゲなんかをプレイすると多くの場合神社が舞台として登場し、そこには必ずかわいい巫女さんがいる。わたしは巫女さんキャラを好きになることが多い。脳内で巫女さんキャラと神社とが結びついた結果、わたしは神社が好きなのだ。

アメドリから歩くこと約25分。板野神社にやってきた。
現実の神社というものは幻滅に満ちている。

[神社は美少女巫女さんを常駐させることを法律で義務化するべきだ もちろん黒髪の]
以前Twitterで書いたときもフォロワーさんたちから多くの賛同を得ることができた。これは国民の総意としての悲願であると言って良いということだ。

現実の神社には巫女さんはいない。いや、観光地の大きな神社には常駐巫女さんがいておみくじなんかを売ってるのかもしれない。地元の神社でも初詣で参拝にひとがたくさん来るときなんかは巫女さんがいることもあるだろう。しかし、近所の何でもない神社に美少女巫女さんが常駐していて箒で境内を掃き清めており、わたしを発見すると嬉しそうに手を振ってくれて、お茶でも出しましょうと言ってくれる、ということは残念ながら無い。

とても悲しい。

ひとが神社に求める要件は、その主要なポイントが巫女さんにあるとはいえ、別のものもある。
神社は出来れば俗世間から隔絶された山の上や森の中にあってほしい。緑に囲まれていて、自然に対して抱く崇敬の念が強化されるような場所であるのが良い。
他人の目に煩わされるような世間的な苦痛から解放された場所であるべきだ。

わたしの実家の近所にある神社であれば、山奥というほどには徹底していないとはいえ、巫女さん要素以外の神社らしさの合格ラインは満たしていた。その神社は、急な石段を登った先にあり、その高度の分だけ俗世間から解放される。後ろに林を背負っており、狭いとはいえ自然の中にあるお社なんだなあということは感じられる。

しかし、現在わたしがいるここ板野神社は、三大副都心のひとつである池袋の徒歩圏内にある神社だ。
俗世間からの隔絶感など到底期待できない。
まず、山も丘もないため、境内は俗世間と同じ高さに作られる。登るべき石段がない。
神社の敷地の外にはすぐに俗世間的な建物が建っている。それらの窓から神社の境内が見下ろせるわけで、他人の目から解放されるということがこの神聖な場所であるべき境内においては許されていない。
大体からして、この神社の神主?管理人?らしき者の自宅が神社の敷地内にある。これでは神社という場所が公の場所ではなくて私有地のようになってしまう。神社にいながらにして「ここ入っていいのかなあ」とビクビクしなくてはならない。


このように、都心の神社について憤懣は深刻な水準に達しているとはいえ、当面のわたしの関心は「原初の狩人・ガラク」にとどまっていた。

[いや でも 今回の基本セットってトークン生成しにくいからガラクがいると全然違ってくるんだよなあ]
iPhoneからツイートする。さっきからカードの話題しかツイートしてないな。

わたしのデッキはシンプルな戦略しか持たない。簡単に言うと、クリーチャーをたくさん並べて、「踏み荒らし」で総攻撃を掛け、対戦相手のライフを一気に削るというものだ。「踏み荒らし」というのは入手しやすい基本的な魔法カードで、場に出ている自分のクリーチャーすべてを一時的に強化する。いわば総攻撃必殺技みたいなカードだ。ただ、「踏み荒らし」で効果的に攻撃するにはあらかじめたくさんのクリーチャーを召喚しておかなくてはならない。
「原初の狩人・ガラク」は、一度場に出すと、場に出ている間は毎ターンそれ自体が新たなクリーチャーを召喚できるため、わたしの戦略にぴったりとハマるのである。

『ドラゴンエイジとヴァンキッシュ、買ったけど積みゲー状態だからこれ売ってカード資金にしようか… でもいつプレイしたくなるかわからんし… 一応両方とも4gamerのユーザーレビューで高得点を叩き出してる良ソフトのはずだしな…』
腕組みをしながら広くもない境内を曖昧な動きで歩きつつ、ぐるぐると考えていた。


「とおさま、欲しいものがあるの…?」

突然、声を掛けられた。
うろうろしている間からこの瞬間に至るまで、この発話の主たるべき他人の存在が視界には一切入っていなかったため不意打ちとなり、無様にびくっとなってしまった。

後ろを振り向く。誰もいない。
さらに視線を落とす。

そこにはおかっぱ頭の幼い女の子がいた。

『幼女(ガタッ …』

わたしの頭にとっさによぎったのは、幼女に話しかけられて嬉しいという当然の反応とは別に、自分のような無職のおっさん(まだ一応二十代だが)が幼女と話しているところを目撃されたら、怪しまれ、通報され、お縄を頂戴することになるに違いないという恐れだった。
わたしはむしろその恐怖で戦慄し、周囲を見回した。幸いなことに目撃者となるような人物は周囲にはいないようだが、ここは都心の神社である。無数に存在する、この場所を見下ろすことのできる窓のうち、どれかひとつに通報者の目が光っていないとは限らない。

「とおさま、欲しいものがあるんですか…?」

トオサマ? 「お父様」ってことかな? 「殿様」? 何かの聞き違い?
わたしにはもちろんこどもはいないし、それどころか…
いや、つらいのでこれには触れないでおこう。

あれか、以前コンビニでバイトをしていたとき、同僚が、年長の相手への敬称で「お母さん」という言葉を使っていた。どこかの方言で、自分の父母でなくても、年長の相手に対して「お父さん」「お母さん」という言葉を使うのかもしれない。

「わたしが欲しいものはこの世界の覇権ですが、目下のところは『原初の狩人・ガラク』です。」

わたしを牢獄につなぐ引き金になり得るとはいえ、目の前の少女に直接の罪はない。わたしはしゃがみ、視線の高さを少女とそろえ、質問に返答した。
可愛らしい顔つきをしている。髪の毛はサラサラでぺたっとしていて、おかっぱ頭が和風ホラー映画にでも出てきそうな日本人形のように似合っている。
幼い女の子の可愛さというものは、わたしの仮説によると、無個性ゆえの可愛さではないだろうか。
人間は、年をとるに従って、最大公約数的な存在から細かく分岐していき、個性的な存在となっていく。当然、容姿にも個性が反映していく。
美醜で言えば、個性とは醜の要素ではないだろうか。
コンピューターで何十人だか何百人だかの顔を合成していきその平均点みたいな顔を算出すると、個性のない顔になり、それが美しい顔の典型とされる、とかそういう記事を以前どこかで読んだ気がする。
こどもというものは個性化以前の存在であり、上記のわたしの仮説に従えば醜の要素が発達していない段階である。
そういう美しさを感じる。

この神社の管理人の家の子だろうか。ご両親はそばにいるのだろうか。いるとするとかなりやばい気がする。

「とおさまが欲しいものって、このお札…?」
少女はそう言うと、空中から…
カードを取り出した。
テレビで手品師が目の前で物を取り出すトリックを行うのを見ると、核心的瞬間が隠されずに目の前で映像として展開されているのにも関わらず、モノが無の空間から発生するさまがよく認識できないということがある。
少女はそのように、何も無い空間からカードを取り出した。手品なのだろうが、やはりカードが出現する瞬間はわたしの認識の死角となる隙間に入り込んだようにうまく認識できなかった。

「これ、あげる…」
少女は取り出したカードをわたしに差し出した。

「見せてもらえるかな?」
とりあえず受領するかしないかを明確にはしない言葉で返答し、差し出されたカードを受け取った。
カードを確認すると、なんとそれは、紛れもなく、マジック・ザ・ギャザリングのカード「原初の狩人・ガラク」だった。

「これ、あげるから、つれてって…」
カードから目を上げると、少女の顔色はいつの間にか蒼白になっていた。
からだの芯もぐら付き、今にも倒れそうに見えた。
とっさに手を伸ばすと、まさに倒れ始めた少女のからだを受け止めることができた。

「大丈夫?」

声を掛けたが返事がない。ぐったりしている。
少女を抱き抱えているこの現場こそ、目撃されたら一発でアウトだ。わたしは今まで以上に必死に周囲を警戒してしまった。
しかし、少女の身を案じるよりもまっさきに自分の保身に意識が向かったことへの恥の意識が生じた。

『20代後半、無職、さらにこれで前科持ちになるな… わたしの後半生は試練に満ちているようだ…』

とりあえず一旦、警察組織に連行される恐れは度外視することにした。
目の前の少女の心配をしよう。

少女を抱きかかえ、神社の建物の屋根の下に寝かせた。背負っていたDバッグに長袖のTシャツを入れていたので、それを枕としてあてがう。
以前、ホームヘルパー2級の講座で、「救急蘇生のABC」というのを教わった覚えがある。少女の状態が現状どのようになっているのか不明なので、今すぐ救急蘇生をするわけではなく状態確認からなのだが、たしかこの知識がこういうとき役立つはずだ。
Aは「air way」。気道の確保。仰向けに寝かせた場合、脱力した舌が口中で空気の通り道を塞ぎ、呼吸できなくしてしまうことがある。少女の顎を少し上げてやり、気道確保の姿勢にしてあげた。
Bは「breathing」。呼吸。呼吸が止まっている場合は人工呼吸を行えという教えだったはず。手を口にかざすと呼吸はしているのでその必要はない。
Cは「circulation」。循環。血液が体を循環しているか。要するに心臓が動いているかどうかということだ。心停止していれば心臓マッサージを行う。
脈は確か手首でとったはず。呼吸しているなら心臓も動いているとは思うのだが、介護職は一年でやめてしまったし、医療・介護の勉強を熱心にしていたわけではないので、わたしの知識は厳密ではない。覚えている限りのことはやったほうが良いだろう。
少女の手首に指を当ててむやみに脈を探していたところ、脈動する血管を見つけることができた。すると心臓は動いているということになる。

呼吸があり、心臓も動いている。転倒時に地面に倒れたわけでもないので外傷もない。
ぱっと見た感じではただ眠っているだけのようにも見える。
ただし、表情は眉にしわを寄せて、苦しんでいるようにも見える。
脱水症状かもしれないしくも膜下出血かもしれないしわたしの知らない持病持ちなのかもしれない。

彼女の保護者が近くにいるのであれば引き渡すことができるのだが、あいにく近くにはいないらしい。
救急車を呼ぶべきだろうか。
あるいは、先手を打ってわたしが警察を呼んで事情を説明し、彼女を保護してもらうべきだろうか。
神社の敷地内には管理人の家らしき住居もあるのだから、そこの住人に報告すべきかもしれない。

迷った挙句、119番をすることにし、iPhoneを取り出した。
ダイヤルを押す前に、深呼吸して、電話で伝えるべき内容を整理しようとした。現在地の説明の仕方、自分が確認できた範囲での少女の容態、転倒時の様子…


「その子、大丈夫?」

すぐ近くから女性の声で話しかけられた。
電話で言うべき内容を整理すべく集中していて、周囲への警戒を怠っていたため、接近に気づかなかったらしい。まあ、もしあらかじめ気づいていても逃げ出すわけにはいかなかったのだけれど。
見られたからにはわたしは通報されるだろう。前科持ちの家族を持つことになる実家の母や弟に申し訳ない気分になった。

だが当面の問題は倒れている少女であり、新たに登場した女性である。

「突然倒れてしまって。この子のお知り合いですか? 救急車を呼ぼうと思うんですが。」

顔を上げて返答しつつ女性の方を見た。
どこかで見た覚えがある。高校生ぐらいに見える。手には紙袋を持っている。買い物帰りなのだろうか。この紙袋もどこかで見覚えがある。

「あ、その子、よく見ると人間じゃないね。」

よく見ると人間じゃない。
人間でなければパッと見で判りそうなものなのだがどうなのだろう。

「わたしの目には人間だと映るんですがそうでないとするとなんなのでしょう。天使?」
「そうだね。近いね。神様だよ。」

ここは神社で、少女は神様。面白くなってきた。

「わたしはこの近所のアパートに住んでる言寺(ことでら)という者です。娘さん、あなたは何者ですか。この少女についてご存知なんですか。」
「ああごめんごめん。あたしは板野桐子(きりこ)。そこ(といって彼女は神社の敷地内にある住居を指さした)に住んでる。この神社の管理人。高校二年生。その子はたぶん、何らかの神様だよ。霊感…というかカンで判るんだ。神様を病院連れていってもしょうがないよ。」

女子高生だ!
わたしは今幼女を介抱しながら女子高生と会話している。しかもここは神社である。これはなんてえろげだろう。
内心の興奮は頂点に達しようとしていたが、しかし、目下の問題を無視してしまうことはできない。大げさな解釈かもしれないが倒れている少女の生命の安全に関わることである。

「この子の正体は置いておくとして、わたしはこの子の今の状態が生命の危険につながらないかを危惧しています。」
「この子倒れたって言ってたけど、おじさ 言寺さん現場にいたの? どんなだった?」
「ええとわたしが神社の境内を颯爽とうろうろしてたら背後から突然話しかけられ、手品みたいにして空中からカードを取り出して、わたしにくれると言い、カードを受け取るとそのまま気絶するように倒れてしまいました。」
「ああだから言寺さん、そっちの手にマジックのカード持ってるんだね。」

言われてみて気づいた。少女から受け取ったカードを左手に持ったままだ。iPhoneを手にしつつガラクのカードを指にはさんでいた。いろいろテンパっててしまうなり何なりするのを忘れていたらしい。

「あ、『原初の狩人・ガラク』じゃん。さっきのお店で結局買った…訳じゃないんだね? ずっとにらめっこしてたようだけど。」

思い出した。この女子高生(キリコさんって言ったっけ)、アメドリで見かけた女性客だ。
するとこの少女は世にも貴重な女性カードゲームプレイヤーか!

「キリコさん」
「キリコでいいよ。なかなかむせる名前でしょ。」
「キリコ…さんはさっきアメドリにいましたね。」
「そ。マジック2012基本セットを5パック買ってきたんだ。キミはさっきガラクを眺めてたね。」
「よく覚えてますね。」
「いまどき下駄はいてるひとなんて珍しいからね。」

「言寺さんに聞きたいんだけど、この子、手品みたいにガラクのカードを取り出したって言ったよね?」
「催眠術だとか超スピードだとかのちゃちなものだったのかもしれませんがわたしの目には無から有を生み出したように見えました。」
「そのとき言寺さんはガラクのカードすごく欲しがってた?」
「わたしはガラクのカードを手に入れるだけのために生まれてきたと言っても過言ではないでしょう。」

「たぶんこの子はひとの願いを叶えてくれる神様だね。だからキミが欲しがってるものをくれた。すぐに倒れちゃったのは神通力が弱ってるから。科学が進歩して、このあたりは都市化も進んで、宗教なんかもどんどん衰退して、神様は弱っていく一方だからね。あたしの話信じてくれる?」
「信じます。」
「えっ 即答!? 簡単に信じてくれるとは思ってなかったのに。」

キリコさんと会話している間、寝ている少女の様子を観察していたが、容態は安定しているように見えた。これなら救急車を呼ばなくても命に別状は無いだろうという判断にわたし自身傾いていた。そのため、会話に臨む姿勢に余裕ができていた。

キリコさんの話す内容は非現実的だった。
にも関わらずわたしが「信じる」と即答したのには以下のような理由がある。
マンガやアニメや映画といったフィクションものの作品を見ると、非現実的な光景を目の当たりにした主人公がそれを認めたり信じたりするのを拒絶するシーンがよくある。目を血走らせて、「こんな事ありえない!」とか「これは夢だそうに決まってる!」とかのセリフを言う。
わたしはそういうシーンが大嫌いだ。なぜなら、それらの反応はテンプレートにはまったように一様で、バリエーションが無い。つまらない。しかもどうせ物語のそのあとの展開では、主人公はその現象を信じざるを得ないことになるのはわかりきっている。
そういうシーンを見る度、つねづね、「自分だったらそういうテンプレ的な反応は絶対しないね」と思い続けてきた。

そしてこの度の件である。
非現実的な説明をする少女が現れ、わたしに「信じてくれる?」と質問してきた。
ここで同意することを渋ってしまっては、わたしをイライラさせ続けてきたあのシーンを自分自身が主催することになってしまう。そんなことは許すわけにはいかない。
返答は瞬発力が大事だ。即答できたのは長年のイメージトレーニングの賜物だろうが、我ながらよくやったと快哉を叫びたい。

ただ、キリコさんの話を全部信じたかといえばまだそういうことではない。しかし当面の間、彼女の話を信じたものとして事態の推移を見守ってもいいだろう。キリコさんの言っていることが何かの冗談であればそれはいずれ露見するだろうし、それが露見しないままで今回の件が一段落してもわたしが実害を被るわけではない。

「では救急車を呼ぶことはやめにします。とりあえずこの子が目覚めるまで見守っていることにしましょう。倒れる前、なにかわたしに言いかけていたようですし。」
「そうしてあげて。キミはなかなかむせる人物だね。」

むせる…?

「キリコさん、ところであなたはこの神社の管理人だと言ってましたね。」
「そうだよ。うちは代々そう。」
「それはあなたがこの神社の巫女さんだという解釈で妥当なのかな。」
「うーんまあそうだね。神様に奉仕する女性ってことだから。大したことやってないけどね。」
「すると巫女服を着ることもありますね。」
「普段は着ないよ。」
「この女の子はキリコさんの言葉によると神様だそうですね。」
「そうだね。八百万の神様の一柱…ひとりだね。」
「この子が目を覚ましたら、この子をどうすべきなのかキリコさんに相談したいのですが、お願いできますか。」
「うん、いいよ。あたしもそのつもりだし。」
「すると、この子が神様である以上、あなたは巫女としてこの子に接するということが言えますね。」
「うちの神社で起こってることだしね。」
「ということはあなたは巫女服を着なくてはなりません。衣服を整えるということは形式上のことではありますが、神仏への敬意を表現する重要な手段です。」
「言われてみれば… たしかにそうかも。」
「巫女服というものは大変素晴らしいものです。しかしそれは、アニメやゲームの世界では頻繁に見かけるものであっても、現実世界で目にすることはめったにありません。それは大変残念な事実だと言わなくてはなりません。もし、現実世界の神社において本物の巫女さんを目にする機会が増えれば、その価値は計り知れません。数多くの人間がそれに感謝し、神社へと足を運ぶようになるでしょう。そのことによって、人々が神を思う心は強化されるはずです。それはちからを失ったとされる八百万の神々にちからを取り戻させることにつながるのではないでしょうか。キリコさん、あなたは、是非、いますぐ、巫女服を着てくるべきです。神に奉仕する使命を帯びる者として。」
「そこまで力説されると、すごいね。なんかその気になってきたよ! よし! じゃあお望み通り着替えてくる! 待っててね。」

そう言うとキリコさんは小走りで建物の中に消えていった。

人間、不退転の決意を持って断固として説得に努力すれば、多くの困難を乗り越えて相手のこころを動かすことができるのかもしれない。

神様と言われた少女は不安げな表情を立てたまま寝息を立てていた。固いコンクリートの上に横たえられているのはかわいそうだ。キリコさんのうちに運びこんじゃ駄目なんだろうか。聞いてみるべきだった。

【01-03】

[幼女が 俺の隣で 寝てる なう]

iPhoneのTwitterアプリに入力したが、ツイートせずに削除した。
今回の件の事情をTwitterで説明するのは難しいしめんどくさい。

キリコさんは10分ほどで戻ってきた。きちんと巫女服に着替えている。ペットボトルのお茶も持ってきてくれた。
待っている間、神様少女は目を覚まさなかった。

「どう?」
「やっぱり巫女服は大変素晴らしいですね。」
「えへへえ… でもいま聞いたのは神様の様子。」
「安定しているように見えます。」

おお…
巫女服女子高生…
わたしの感じていた幸福感は最高潮に達しようとしていたが、それを表現する適切な手段を持っていなかった。
そこで、キリコさんを拝むことでそれに充てることにした。
キリコさんに向かって手を合わせた。

「とても良いものを拝見させていただきました。ありがとうございます。」
「あの なんか こわいから拝まないでくれる? お茶飲む?」
「ありがとうございます。いただきます。」
「その、キミはひょっとして巫女萌えなのかな?」
「あなたは今、身の危険を感じましたね。」
「う、うん。」
「それが危険察知能力というものです。その感覚は大切になさい。きっと役に立つ。」

「神様の件ですが、固いコンクリートに横たえておくのもかわいそうなので、キリコさんのお宅に移動させてはどうですかね。」
「あっ そのほうがいいかも知れないね。ごめん気がつかなくて。」
「したらわたしが抱えてあげちゃっていいのかな? おっさんが神様に触れるのはまずい?」
「いいんじゃない? 変なことしなければ。」

神様少女を移動させるため抱きかかえようと首の下に手を差し入れたところ、それがきっかけとなり少女が目を覚ました。
彼女は目を覚ますと、バッと上体を起こし、何かを探すように当たりを見回した。横になっている間浮かべていた不安そうな表情が、一気に強まったかのように見えた。
どうも探していたのはわたしだったらしく、わたしを見つけると表情から不安げな色合いが消えた。

「よかった… とおさままだいた…」

「体の具合はどうだい…ですか … どうかな?」
わたしは少女に呼びかけた。こども相手だと普段は砕けた言葉使いになるのだが、相手は神様だということでもあるし、どういう言葉使いにすべきだろうか。

「シタリはね、だいじょおぶです。」
「シタリというのはお嬢ちゃんの名前かな ですか?」
「はい。そおです。」

「はじめまして、シタリちゃん。あたしはキリコっていうの。よろしくね。」
ここでキリコさんが会話に入った。
「はじめまして、キリコねえさま。シタリです。」
シタリちゃんはとても礼儀正しい。躾が良いのだろう。今時珍しいこども?だ。神様だとするとやっぱり年齢は数千歳だったりするのだろうか。
キリコさんは神様相手にちゃん付けでいいんだろうか。

「シタリちゃんはどうしてこの人のことを『とおさま』って呼ぶの? それって父親、パパって意味?」
「はい。そおです。シタリのおとおさんだからです。」
「えっ そうなんすか」
わたしはぎょっとして声を上げた。思わずキリコさんと顔を見合わせた。

「いや、わたしにはわたしの記憶の範囲内では子孫はいませんよ。」
「大丈夫だよ、心配しなくても、キミはとてもこどもがいるようには見えない。少なくともキリコちゃんがキミのこどもじゃないってことはわかってる。ただ、キリコちゃんがキミのことをそのままの意味で父親だと呼んでいるのは重要だと思う。」

「とおさま、さっきのお札、もってる?」
「『原初の狩人・ガラク』かな? 持ってるよ。」
「そのお札がね、とおさまがほしがっていたものです。」
「左様。」
「そのお札をあげます。」
「はい。」
「だから、シタリをね、つれていってください。」

「シタリちゃん、質問があります。」
「…? どうぞ…」
「連れていくというのは、どこに連れていけばいいのかな。おうちに帰りたいのかな?」
「とおさまのおうちにつれていってください。シタリもね、そこにかえります。」
「わたしの狭くて汚いアパートに来て、なにをするのかな。」
「シタリはね、そこにすみます。」

これは容易ならざる話になってきたぞ。

「シタリちゃんのお父さんとお母さんはどこにいるのかな?」
「とおさまは …(わたしを指さした) かあさまは、目にはみえません。」
「やっぱりその、お母さんは、山!とか森!とか自然!とか大地!とかそういうものなんですかね。」
「シタリはね、むずかしいことは、わかりません。」

「言寺さん、あたしの意見言っていい?」
「キリコくん、君の意見を聞こう。」
「シタリちゃんはたぶん、座敷わらしとかそれ系の神様だね。気に入った人の家に住み着いて福をもたらすの。ものによってはいたずらもするみたいだけどシタリちゃんはお行儀が良さそうだからそれはないかも。」
「はい。」
「せいぜい枕返しをしたりものの配置を動かしたりする程度じゃないかな。」
「パソコンのハードディスクの中をいじらないなら大抵の事は大丈夫です。」
「そういえばそのガラクのカード」
「キリコさんもMTGプレイヤーなんですか。」
「マジック? うん。結構やってるよ。」
「色は?」
「まあ何でも使うけど今のメインは赤かなあ。君もマジックやるんだよねお店にいたから。ガラクってことは緑?」
「緑単です。ぜひ対戦しましょう機会があれば。スタンダード? エターナル?」
「シタリちゃんの話、続けてもいい?」
「どうぞ。」
「そのガラクのカード、キミが欲しがってたら、シタリちゃんが何も無いところから取り出したって言ってたよね。」
「はい。ちゃんと日本語版でした。」
「だったらあたしの推理では、シタリちゃんは『竜宮童子』って呼ばれる神様だね。」
「竜宮童子。わたしはその単語について詳しくありません。」
「竜宮童子っていうのはね、えーと福の神の一種で… ひとの家に住み着いて… ごめんあたしひとにものを説明するのあんまり得意じゃないんだけど」
「なんならiPhoneでググりましょうか。」
「ひとが一生懸命説明してるんだから最後まで聞く!」
「失礼致しました。」
「気に入った家に住み着くの。で、住人が大切にしてあげると望みを叶えてくれたり富を与えたりしてくれる。ところが住人に与えた分だけ竜宮童子の姿は薄汚くみすぼらしくなっていく。よくある民話ではだいたい、家も裕福になったしもう用はないやってことで、竜宮童子にそろそろ家から出てって帰ってくれないかと追い出すことになるんだけど、竜宮童子が家から出ていくとそれまでにもらった富も全てなくなってしまう。そういう話。あとはググッて。」
「よくできました。」
「ちゃんと聞いてた?」
「理解しました。」

シタリちゃんは不安そうに成り行きを見守っている。彼女の立場からすると、わたしが彼女を引き取るかどうかを心配しているのだろう。

「話を整理すると、シタリちゃんは、わたしのアパートに住みたいのかな?」
「はい。そうです。とおさま。」
「いくつか問題点があります。相談に乗ってくれますかキリコさん。」
「断る。」
「えっ… ちょっ… まじで」
「言ってみたかっただけ。今本気でうろたえたね。面白かった。」
「シタリちゃんをうちに引き取るという件に関してわたしがパッと思いつく問題点を列挙します。
わたしは会社辞めたばかりで経済的余裕が無い。
幼女とおっさんとが同居するのは人道の観点から見て問題なのではないか。
シタリちゃんの教育はどのようにしたらいいのか。神様だから必要ないのか、こどもだから学校に行かせるべきなのだ。」
「働いてください。」
「はい。すいません。今職を探しています。」
「まあ神様はすごく食べるわけじゃないだろうし、服とかうちにあるもので利用できるものは援助するよ。
同居がどうこうってのはキミがきちんとしてればいいんじゃないの。」
「善処はしますがわたしがキリコさんの立場だったらここは強めに問題視するポイントでしょう。」
「神様に悪さしたらバチが当たるよ。それだけわかってればいいんじゃない。」
「うーんまあ、この件でのブレーキ役であるキリコさんがOKならばいいんでしょうが。」
「学校に行かせる必要はないと思う。手続きも難しいだろうし戸籍とか。」
「わたしが仕事はじめたら日中はアパートに置き去りになるんですかね。かわいそうじゃないですか。」
「まあ神様だから基本的には好きにさせておいたらいいじゃないかな。」

「わたしにはひとつ代案の着想があるのですが聞いてもらえますか。」
「なに?」
「この神社のキリコさんのお宅でシタリちゃんを預かってはいかがでしょうか。うちのアパートもどうせ近所だし。おっさんとふたりで暮らさせるよりも安全だろうと思いませんか。わたしはちょこちょこ様子を見に来ます。」
「それは、神様の意志に反するんじゃないかな。」

正直わたしは、あの狭いアパートで、事実上の扶養家族となるであろう幼いこどもを抱え込むのは現実的な選択ではないと思っていた。
シタリちゃんを引き取る決心はつかず、いかにして彼女をキリコさんのところに置いてもらうかを考えていた。

わたしの様子を見て不安を募らせたのであろう、シタリちゃんが声をかけてきた。
「とおさまは、シタリのこと、きらいなの…?」

この言葉には良心を痛く刺激された。わたしは自分の都合のことしか考えていなかった。
シタリちゃんがなぜわたしを選んだのかその理由はわからないが、神様とは言えひとびとの心が離れていってちからの弱った存在がわたしに助けを求めているということだ。
彼女を引き取るというのは、しんどいものではあるだろうが、価値のある活動だ。
今回の件は、わたしが会社を辞めた理由とつながっていると考えることができる。
会社を辞めるのを決心したのと同じ理由を継続して持っているのなら、彼女を引き取らないのは一貫性が無い。

さらに、もっと単純な水準で考えれば、シタリちゃんはかわいい。わたしはこどもが好きでもある。いかがわしい意味ではなく。アパートは狭いとはいえ彼女と暮らすのは世話が大変というのとは別に楽しみも多いんじゃないだろうか。あるいは、彼女は神様なのだから、人間のこどものようには世話に手間がかからないのかもしれない。
わたしは覚悟を決めた。強固な覚悟ではないかもしれないが、とりあえずやってみよう。で、困難に遭遇するようなら、キリコさんに相談しよう。

「わたしは、シタリちゃんみたいは良い子は、好きです。じゃあうちに来なさい。」
「うん。よかった。」

「キミがしたりちゃんをつれていく決心を付けてくれて安心したよ。」
「キリコさんの協力が必要です。引き続き相談に乗ってくれますか。」
「そのつもり。」
「したらメールアドレス教えていただけますか。」
「じゃあメアド交換しよう。」
われわれは連絡用メールアドレスと、ついでに携帯電話の番号とを交換した。

「Twitterやってればほぼ常時連絡付くんですがね。」
「ツイッター? やってるよ。」
「え、まじすか。IDは?」
「キミもやってるならフォローしておこうか?」
「お願いします。」

キリコさんはTwitterもやっていた。Twitterでの繋がりがあるとコミュニケーション距離が段違いに近くなるので正直助かった。

「さて、アパートに戻る前に、この神社でやっておくべきことがあります。」
「ん? うちに用事? お賽銭でもくれるの?」
「鋭い。」
「お金に余裕無いんじゃなかったっけ?」
「正確に言うと、金銭ではなくて、この『原初の狩人・ガラク』を寄付… 奉納します。」
「え、せっかくシタリちゃんがプレゼントしてくれたのにいいの?」
「マンガやアニメで培ったわたしの経験から言うと、この手の手段で手に入れたものというのはろくな結果を産みません。手放しておいたほうが、回りまわってトラブルの原因になるということを予防できるでしょう。神様から頂いたものは神様に返す。」
「言寺さんって、言うことが、むせるね。」
「むせるって、その、炎の匂いが染み付くあれでしょうか。」
「褒めてるんだよ。恥ずかしいから言わせないの。」

ここでキリコさんのいう「むせる」という言葉は彼女の独自の用法で用いられる造語であるようだった。包括的には良い意味なのだと解釈しておくことにした。
彼女の用法に従えば、おそらくふたつの星系が原因すら定かでない戦争を百年間続けていたりなどという複雑な条件を満たさなくてもこの言葉を手軽に使えるのだろう。

「ところでキリコさん、わたしにはカードを奉納する際の正式な方法についての知識が無いんですが具体的にはどう執り行えばいいでしょうか。」
「わからないなりに考えてみるとどうだと思う?」
「こういうのはカタチよりもココロが大事です。」
「キミには見込みがあるね。シタリちゃんがキミを気に入った理由はその辺かもしれない。」
「では神社の美点の集約点である巫女としてのキリコさんにこのガラクをお渡しします。」
「はい。」
「ええと跪こうかな。」

わたしはキリコさんの前に片膝立ちになったが、どうにも照れが出てしまい、我ながら中途半端な動きになっているのを感じた。

「ほら、思い切りが悪いよ! やるならもっとしゃっきりやって!」
「はい、すいません!」

活を入れてくれたのをきっかけにしてわたしは姿勢を整えた。背筋を伸ばす。キリコさんはハキハキしていてとても爽快な存在だと思う。

「『原初の狩人・ガラク』を、奉納致します。お受け取り下さい。」
「はい。承りました。」

こうしてカードの受け渡しは無事に済んだ。

わたしはシタリちゃんの手を引いてアパートに帰った。